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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)4252号 判決

原告 株式会社末広商店

被告 来住猪一郎

主文

被告は原告に対し金四七四、六五九円及びこれに対する昭和三二年一〇月三日から右支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、金一五〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行できる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「(一) 原告は、スフ織物の製造販売を業とする株式会社であるところ、

(1)(イ)  原被告は、昭和三一年一一月上旬スフサロンの加工契約をなし、その契約内容は、原告において被告に対し同月一六日までに原糸三、六三七ポンドを交付し、被告はこれに加工して同年一二月末日までに二インチ巾スフサロン一二、八三二ヤードを製造して原告に納付すべく、原告はその後直ちにその加工賃を支払うというのであつて、原告は被告に対し同年一一月一六日までに右原糸全部を交付した。

(ロ)  ところが、被告は右納期までに原告に対し約定のスフサロン九九五九ヤードを加工製造して納付しただけで、さきに交付を受けた原糸のうち八一四五ポンドに対する分は債務を履行せず、その頃これをほしいままに自己の用途に費消してしまつた。

(2)(イ)  原被告は同年一二月六日スフサロンの加工契約をなし、その契約内容は、原告において被告に対し同日原糸二、三六二ポンドを交付し、被告はこれに加工して昭和三二年一月三一日までに四二インチ巾スフサロン八三、八二五ヤードを製造して原告に納付すべく、原告は、その後直ちにその加工賃を支払うというのであつて、原告は即日被告に対し右原糸全部を交付した。

(ロ)  ところが被告は、右交付を受けた原糸の一部に対する債務の履行をしたけれども、原糸一、五一二ポンドに対する分は債務を履行せず、その頃前同様右原糸をほしいままに自己の用途に費消してしまつた。

(ハ)  そこで、原告はやむなく、その頃他の工場へ原糸一、五一二ポンドを交付して前記規格のスフサロンを加工製造せしめたため、被告が履行しておれば支出するを要しない金四、五〇〇円の余分の支出をなしたので、被告の債務不履行により同額の損害をこうむつたわけである。そして、その損害の賠償義務のあることは被告もその頃これを承認していた。

(3)(イ)  原被告は、昭和三二年一月一四日スフサロンの加工契約をなし、その契約内容は、原告において被告に対し同日原糸九七二ポンドを交付し、被告はこれに加工して同年二月末日までに四八インチ巾スフサロン三、〇〇〇ヤードを製造して原告に納付すべく、原告は、その後直ちにその加工賃を支払うというのであつて、原告は、即日被告に対し右原糸全部を交付した。

(ロ)  ところが、被告は、右交付を受けた原糸の一部に対する債務の履行をしたけれども、原糸八三一ポンドに対する分は債務を履行せずその頃前同様右原糸をほしいままに自己の用途に費消してしまつた。

(4)(イ)  原被告は、同年二月五日スフサロンの加工契約をなし、その契約内容は、原告において被告に対し同日原糸一、〇三五ポンドを交付し、被告はこれに加工して同年三月三一日までに四八インチ巾スフサロン四、〇〇〇ヤードを製造して原告に納付すべく、原告はその後直ちにその加工賃を支払うというのであつて、原告は、即日被告に対し右原糸全部を交付した。

(ロ)  ところが被告は右債務を全く履行せず、その頃前同様右原糸全部をほしいままに自己の用途に費消してしまつた。

(二) 上述の如くであるので原告は、昭和三二年四月上旬頃被告に対し口頭で前示各不履行の債務を同月十日までに履行すべく、その不履行の場合は前示各不履行の部分についての各加工契約を解除する旨の催告並びに条件付契約解除の意思表示をなした。けれども、被告は、右催告期間内に履行をしなかつたので、右各加工契約は不履行の部分につき、同月十日限り解除されたわけである。

(三) そうすると、被告は、右解除にもとずく原状回復義務として、前示不履行にかかる各原糸を原告に対し返還すべきものであるところ、前示のように被告はこれをほしいままに自己の用途に費消してしまつたので、原告に対し、右各原糸の解除当時における価格を償還すべきである。そして、その価格は、前示(一)の(1) (ロ)の原糸八一四・五ポンドは金三九、四八一円、同(2) (ロ)の原糸一、五一二ポンドは金二〇三、三七九円、同(3) (ロ)の原糸八三一ポンドは金八八〇三円、同(4) (イ)の原糸一、〇三五ポンドは金一三八、〇九六円以上合計金四七〇、一五九円である。

(四) よつて、原告は、被告に対し右金四七〇、一五九円と前示(一)(2) (ハ)の損害金四、五〇〇円との合計金四七四、六五九円及びこれに対する本件訴状が被告に送達せられた日の翌日である昭和三二年一〇月三日から支払ずみに至るまで商法で定める年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだ次第である。」

と述べ

被告の管轄違の抗弁に対し

「原告の本店所在地兵庫県西脇市山手町三六九番地であるが、原告の主なる事務所は大阪市東区安土町一丁目安土ビル内にある大阪営業所である。本店は、大阪営業所において加工注文をなした商品につき、その注文を受けた者において、現在約定どおり加工をなしつつあるかどうかを監視し、かつその商品の出荷督促をするだけである。故に、本訴は原告の主なる営業所の所在地を所轄する大阪地方裁判所の管轄に属する。本件各加工契約においては原告が交付した原糸に対し被告がその住所地である西脇市で加工したスフサロンは加工終了後原告の右大阪営業所に送付すべき約定であつたから、その義務履行地は大阪市である。そして本訴請求は結局右各契約に基因するものであるから、この点からみても本訴は、右裁判所の管轄に属すべきものであるというべきである。以上の次第であるから、被告の管轄違の抗弁は理由がない。」

と述べ、

立証として、甲第一号証の一、二を提出し証人高瀬稔の証言を援用した。

被告は、本件各口頭弁論期日に出頭しなかつたが、その提出にかかる管轄違の抗弁並びに訴訟移送の申立書と題する書面には、「本訴の原被告の住所はいずれも兵庫県西脇市であるから、本訴は同市を所轄する神戸地方裁判所社支部の管轄に属し、大阪地方裁判所の管轄には属しない。もつとも原告は、訴状に原告会社の本店所在地として「西脇市山手町三六九番地」を表示すると共にこれとならんで「大阪営業所大阪市東区安土町一丁目安土ビル内」と表示しており大阪市を所轄する大阪地方裁判所に本訴を提起したもののようであるが、仮に本訴が右営業所の業務に関するものであつても、民事訴訟法第九条により右裁判所に管轄があるはずはなく、他のいずれの点から考えても右裁判所の管轄には属しない。すなわち本件は管轄違であるから、管轄裁判所である前示裁判所に移送せられるべきである。よつて、被告はその旨の決定を求める。」旨記載されている。

理由

まず、被告の管轄違の抗弁について判断する。

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるので真正に成立したものと推認する本件訴状添付の証明申請と題する書面及び証人高瀬稔の証言及び弁論の全趣旨を総合すると原告会社は、輸出用のスフ織物の製造販売業者であつて、その主なる営業は右織物を訴外株式会社伊藤忠商店株式会社丸紅等に販売することであつて、本店は肩書の兵庫県西脇市山手町三六九番地であり、その旨登記せられ、大阪市東区安土町一丁目安土ビル内に大阪営業所を有すること、右大阪営業所では、原告会社代表取締役高瀬豊介の長男高瀬稔が昭和二九年一二月から現在に至るまで所長として従業員約十名を指揮監督して営業一切を主宰していること、原告の営業取引は殆どすべて大阪営業所において行われ、特に原告の主なる営業である株式会社伊藤忠商店、株式会社丸紅等に対するスフ織物の販売取引は専ら同営業所において行われていること、大阪営業所においては、所長高瀬稔が原告会社代表取締役高瀬豊介の承認のもとに、代表取締役高瀬豊介名義及びその印章を使用して第三者との取引をなしていること、原告会社本店では、大阪営業所が西脇市在住の織物加工業者に対しスフ織物の加工方を注文した際、その加工業者が約定どおり加工しつつあるかどうかを監視し、加工を了した織物の出荷(大阪営業所あて)を督促するという、限られた極く小範囲の業務をなしているに過ぎないことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない右認定の事実関係によると、原告会社においては本店は、名ばかりで、その営業の極く小範囲の業務を行つているだけであつて大阪営業所が原告会社の営業の事実上の中心場所であるというべきである。

しかして、会社の本店が登記してある場合でも、本店は営業の極く小範囲の業務を行うだけで、本店以外の他の営業所が客観的に会社営業の事実上の中心場所であるときは、右のような営業所をもつて、民事訴訟法第四条第一項のいわゆる「主たる営業所」であると解するを相当とする。そうすると、原告会社の主たる営業所は、大阪市にある前示大阪営業所であるというべきであるから、同条により同市を所轄する大阪地方裁判所は、本訴につき管轄権を有する。従つて、被告の管轄違の抗弁は理由がなく、移送申立は却下すべきである。

そこで、進んで、本案につき、判断する。

被告は、本件各口頭弁論期日に出頭せず、かつ、本案につき、答弁書その他の準備書面をも提出しないから、原告が請求原因として主張する事実は被告においてこれを明に争わず、自白したものとみなされる。そして、右主張事実によれば、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安部覚)

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